展示物から“人の暮らし”を伝えるための、学芸員のこだわり──「たばこと塩の博物館」
実際に見聞きし、体感することの大切さ
こころノート編集部の仕事をしていると、取材で現地に赴き、実際に人に会うことって大事だなと日々実感します。コロナ禍を経て、リモートやオンラインでできることはずいぶん増えました。でもやっぱり、直接会ってみないと分からない、伝わってこないことも多いなって。
最近では、美術展やコンサートなどのリアルイベントが盛んに開催されるようになってきました。会場で展示品や音楽に触れると思わぬ気付きや感動があり、実際に体験することの大切さを再確認します。
JTグループにも、そんな感覚を味わえる素敵な博物館があるって、知っていましたか? それが、「たばこと塩の博物館」です。
なぜ「たばこ」と「塩」? ユニークなテーマの博物館
たばこと塩の博物館は、「たばこ」と「塩」にまつわる歴史と文化をテーマとしています。たばこも塩も、かつては国が管理していた専売品で、JTの前身である日本専売公社によって取り扱われていました。1978年にたばこの専売事業70周年を記念して、日本専売公社によって設立されたのが、同館です。たばこと塩というユニークなテーマは、こうした成り立ちに由来しているんですね!
館内には、たばこと塩、それぞれの歴史と文化を紹介する常設展示のほか、バラエティに富んだテーマに基づく特別展を年4回ほど開催。また、所蔵する専門書籍が見られる図書閲覧室や、特別展に関連した講演・イベントなどが行われる視聴覚ホールなど、教育・普及のための施設もそろっています。
たばこの常設展示では、たばこ文化の起源や世界への伝播、日本への伝来から現代に至る歴史を、貴重な収蔵品の数々やジオラマ展示などを用いて紹介。また、塩の常設展示では、人類と塩との関わりや製塩技術の歴史、塩の役割などを、世界の岩塩の実物展示や、映像などで伝えています。
人々の暮らしを想起させるような展示を作りたい
そんな「たばこと塩の博物館」の展示は、どのように作られているのでしょうか? 学芸員を務める、青木 然(あおき ぜん)さんに、お話を伺いました。
ともこ: 早速ですが、学芸員のお仕事について教えてください。
青木さん: 学芸員の業務は大きく分けて、調査研究、資料の収集・保管、展示、教育普及の4つ。「たばこと塩の博物館」では、各学芸員が自身の専門分野に沿って、これらの業務を行います。どれも大事な業務ですが、中でも展示のために費やす時間が一番長いです。
ともこ: とても幅広いお仕事をされているのですね! 私たちが博物館で見られる特別展はどのように作られているのですか?
青木さん: まず、学芸員全員で3年先までの展示テーマを決めていきます。テーマが決定したら、個々の概要と目的をまとめた企画書を作成します。開催にあたっては、外部の美術館や博物館、コレクターの方などから物品を借用することもあるので、企画内容を元に交渉も進めていきます。その後、展示内容が固まってきたら、ポスターや図録書籍などのデザイン・DTPを外部のデザイナーさんに依頼。並行して、特別展示室のレイアウトや各展示物の解説文の作成、展示パネルなどの制作も行っていきます。
ともこ: テーマが決定した後のお仕事は、全て一人で行うのですか?
青木さん: そうですね。展示テーマに近しい専門分野の学芸員を担当者とし、基本的には一人で対応していきます。でも、ポスターやチラシのチェックや展示品を並べる作業などは、学芸員みんなで協力して行います。これは当館の特徴的なところかもしれません。ちなみに、開閉館時の展示室の見回り作業も、毎日学芸員みんなでやっています。こうすることで各学芸員が自身の専門外の知見・知識の隙間があることを気付けたりしますし、お互いに足りない部分をフォローし合えるんです。
ともこ: 皆さんの知見や知識を有機的に発揮させることで、「たばこと塩の博物館」の充実した展示が生まれているんですね。他にも、皆さんで協力していることはありますか?
青木さん: 最近はSNSにも力を入れていて、XやInstagramを活用した広報活動を行っています。これは、広報担当スタッフと展示を担当する学芸員が連携して投稿内容を考えているんです。「今日はこんな投稿をしようか」「こんなネタはどう?」みたいに、密にコミュニケーションを取り合って更新しています。
ともこ: 今後、博物館のSNSを見るのが楽しみになりそうです。ところで、青木さんはそもそもなぜ学芸員になろうと思ったんですか?
青木さん: 昔から、歴史的なものが好きだったんです。中学から高校時代は歴史研究部に所属していて、研修旅行として各地の博物館に行ったり、文化祭で展示を作ったりすることもありましたね。博物館で展示を見ることはもともと好きで、学芸員という仕事にも魅力を感じるようになりました。
ともこ: 展示を見ることも作ることも、昔から行われてきたのですね。そんな経験豊富な青木さんが、展示を作るにあたって、こだわっていることは何ですか?
青木さん: 展示品を見ることによって、それらの品々に関わってきた人たちを想起できる展示にしたい、と思っています。たばこも塩も、人々の暮らしに密接に関わってきた物ですよね。当館の所蔵品は、美術館で展示している作品のように名の知れた物ばかりではないですが、それゆえに生活のにおいがするというか……。
ともこ: 確かに、たばこも塩も、人々の生活に根付いたものですよね。
青木さん: そうですね。当館の展示物は、それらを通じて人々の暮らしや想いが見えるものが多いんです。例えば、私が専門にしているたばこの分野でいえば、宣伝ポスターやパッケージから当時の人の暮らしがうかがえる。また、喫煙具からは使用していた人の所作が想像できますし、その細やかな意匠からは嗜好品ならではの遊び心も感じられます。時代ごとの人々の心豊かな営みを垣間見られるのがこの分野の面白さですね。
ともこ: 「人々の暮らしや想いが見える」展示として、最近はどのような工夫をされましたか?
青木さん: 先日行ったヴィンテージライターの特別展では、当館近隣の墨田区のコレクターの方から寄贈いただいたライターを展示しました。実は、ライターはかつての墨田区の地場産業。その方は、地場産業の記録を残したい、という想いでコレクションしていたんです。一つ一つ、品々に解説を付けて、自作のケースに保管し、何万点も所蔵していて……。寄贈品のうちの、一部を展示させてもらいました。その際には、収集したライターに込められたその方の想いがより伝わると考え、使用されていたコレクションケースも展示しました。
ともこ: 物だけではなく、コレクションケースも! 確かに、保管していた箱や容器を見れば、その方がどのようにライターを取り扱っていたかがうかがえますね。それでは、今後どのような特別展を開催していきたいか、展望をお聞かせください。
青木さん: 物を見せることによって、それらに関わる当時の人たちの生活やドラマを見せる──「人を感じられる展示」を作っていきたい、という想いは持ち続けています。加えて、そうした展示を心掛けることで、それぞれの展示物に対する新たな発見や驚きも提供したい。展示されている物に対して、これまで当たり前のように感じていた印象を変えられたら。たばこや塩に携わってきた人たちの生活や暮らし、こだわりといった“息づかい”を、展示品から感じてもらえたらうれしいです。
当時の人々の心豊かな日々を追体験できる場
人々が美術館や博物館へ足を運ぶのは、直接見なければ体感できない魅力があるからです。たばこと塩の博物館でも、そんな魅力をたくさん見つけられました!
私が特に心惹かれたのは、日本の喫煙具である「たばこ入れ」。美しい装飾が施され、日用品でありながら美術工芸品としても価値のある品々に、どんな人が、どのような気持ちで使っていたのだろう……と、当時を思い浮かべてわくわくしました! 「たばこと塩の博物館」は、そのように人々の心豊かな日常を想像し、追体験できる場所なのかもしれません。
現在は、毎年の恒例企画である特別展「夏休み塩の学習室」を開催中の同館。塩の意外な使い道が学べる参加型の展示のほか、塩を用いたさまざまな実験を行うワークショップは夏の自由研究の題材にもぴったりです。私も子どもと一緒に、近々もう一度行ってきます! 入館料もお手頃なので皆さんもぜひ!!(2024年8月時点情報)
関連リンク
たばこと塩の博物館
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担当社員のひとことプロフィール
青木 然さん。たばこと塩の博物館 学芸員。明治時代以降の、たばこの歴史や文化が専門分野。最近、心の豊かさを感じた瞬間は、おいしいご飯を食べたとき。博物館近くのご飯屋さんで食べた魯肉飯のおいしさに癒やされたそう。